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東京地方裁判所 昭和29年(行)81号 判決 1958年7月03日

原告 日本勧業保全株式会社破産管財人 関口保二 外一名

被告 淀橋税務署長

主文

被告が日本勧業保全株式会社に対し、

(一)  昭和二十九年二月四日付でした昭和二十八年八月分から十二月分までの源泉徴収所得税額合計金二四、六六六、三〇六円及び同年八月分及び九月分の源泉徴収加算税合計金二、四一一、二五〇円を徴収する旨の処分

(二)  昭和二十九年二月十六日付でした昭和二十八年十月分源泉徴収加算税額金一、七三四、二五〇円を徴収する旨の処分

(三)  昭和二十九年三月十八日付でした昭和二十八年十一月分源泉徴収加算税額金一、五七六、五〇〇円を徴収する旨の処分

(四)  昭和二十九年四月二十日付でした昭和二十八年十二月分源泉徴収加算税額金四四七、五〇〇円を徴収する旨の処分のうち金三、七五〇円を超過する部分

(五)  昭和二十九年三月三日付でした右会社の前記(一)記載の源泉徴収所得額の徴収処分に対する再調査の請求を棄却した決定

をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の申立及び主張は別紙のとおりである。

(証拠省略)

理由

一、日本勧業保全株式会社(以下単に破産会社という)が原告等主張の日に設立されたその主張の事項を目的とする会社であつて、原告等主張の日時に当庁において破産の宣告を受け、同時に原告等二名がその破産管財人に選任せられたこと、被告が破産会社に対し原告主張の日にその主張する内容の源泉徴収所得税及び源泉徴収加算税を徴収する旨の処分をし、右各処分はその日付の頃破産会社に対し通知されたこと、破産会社が、被告のした右処分のうち昭和二十九年二月四日付の昭和二十八年八月分から十二月分までの源泉徴収所得税及び同年八月分、九月分源泉徴収加算税の徴収処分に対し原告等主張の日に被告に再調査の請求をしたが、原告等主張の日に棄却され、その主張の日にその通知を受けたこと、原告等がその主張の日に東京国税局長に対し審査の請求をしたが、その請求の日から三箇月を経過しても右局長が審査の決定をしていないことはいずれも当事者間に争がない。

二、そこでまず被告の本案前の主張について考えてみる。

破産会社及び原告等が、被告の昭和二十九年二月十六日付でした昭和二十八年十月分源泉徴収加算税の徴収処分については再調査の請求をしていないこと(原告等が再調査の請求を経ないで昭和二十九年三月二十六日審査の請求をしたこと)、原告等が被告の昭和二十九年三月十八日付でした昭和二十八年十一月分源泉徴収加算税の徴収処分及び昭和二十九年四月二十日付でした昭和二十八年十二月分源泉徴収加算税の徴収処分については再調査の請求も審査の請求もしていないことは原告等の認めるところである。しかし右各処分は、被告が破産会社に対してした昭和二十八年十月分から十二月分までの源泉徴収加算税の徴収決定であり、本税である右各月分の源泉徴収所得税の納付義務の存在を前提とするものであつて、該源泉徴収所得税の徴収処分が取消されると当然にその効力を失うべき性質のものである。ところで右各加算税の本税である源泉徴収所得税の徴収処分については適法に再調査の請求及び審査の請求がされていることは前記一のとおりであるから、右加算税の各徴収処分については再調査の請求及び審査の請求を経ないで取消の訴を提起するのに正当の事由がある場合に該ると解すべきである。従つて右各徴収処分の取消を求める訴はいずれも適法であつて、被告の本案前の主張は採用することができない。

三、破産会社がその事業資金を一般大衆から集め、その資金の提供者(その性質が争点であるが便宜上以下いわゆる出資者ということとする)に被告主張の金額を支払つたことは当事者間に争いがない。そこで破産会社がいわゆる出資者に支払つた金員(便宜上これをいわゆる配当ということにする)が所得税法第四十二条第三項に規定する匿名組合契約等に基く利益の分配に該るかどうかについて考えてみる。

(1)  成立に争のない乙第三号証、第七号証、甲第一号証、第二十八号証、第三十二号証ないし第三十五号証、原本の存在とその成立に争のない乙第十、第十一号証の各一ないし第三、証人藤森劣の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の一、二、証人野中武の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の三、七、証人野沢秀吉の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の四、証人牧衛の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の五、九、証人門井章の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第六号証の六、八、と証人菅野左一、同宮下国治、同新井彦作、同加藤伝、同高橋安雄、同尾身嘉一の各証言を綜合すると、破産会社は新聞公告、ビラ、営業案内、投資案内の頌布、勧誘員の勧誘等の方法で、破産会社は実業投資会社であつて、日勧電気工業株式会社、日勧ミシン工業株式会社、日勧商事株式会社、日勧蓄産振興協会、日勧鉱業株式会社、日勧印刷株式会社等に投資してその利潤の配当を受ける外、合成樹脂の製造販売、森林開発事業、不動産の売買、旅館ホテルの経営等の直営事業を営み、多大の資金を要するのでこれにあてるため、金額一万円以上又は証券取引所に上場されている株式を期間三ケ月、六ケ月、十二ケ月又は二十四ケ月、配当(昭和二十八年六月頃からは配当という文言の使用をやめて利息としたが特別配当という文言は一部残つていた)現金投資の場合期間三ケ月のもの毎月二分、六ケ月のもの毎月三分、十二ケ月のもの毎月四分、二十四ケ月のもの毎月五分とし、株券投資の場合六ケ月のもの毎月一分五厘、十二ケ月のもの二分、二十四ケ月のもの二分五厘とし、この外に特別配当として毎月二分(二年のものは一分)の加配をし、又希望者には債券等の担保をつけること、又期間中途の解約もできることとの条件で投資(昭和二十八年八、九月頃からは投資という文言も使つたが同時に借入れという言葉も使つていた)を求めており、この投資は銀行預金等より有利であり、又安全な利殖方法である旨宣伝し、一般大衆にいわゆる出資契約の申込の誘引をしていたことが認められる。

(2)  成立に争のない甲第二、第三号証の各一、二、第九号証、乙第十三、第十四号証、証人新井彦作の証言によつて真正に成立したと認められる甲第四、第五号証の各一、二、証人加藤伝の証言によつて真正に成立したと認められる甲第十、第十一号証、前記乙第六号証の一ないし十と証人菅野左一、同宮下国治、同新井彦作(但し後記の部分をのぞく)、同加藤伝、同高橋安雄(但し後記の部分をのぞく)、同尾身嘉一の各証言を綜合すると、破産会社の右申込の誘引に応じていわゆる出資者が契約の申込をすると、破産会社はこれを承諾し、設立以来昭和二十八年五月末日まではいわゆる出資金(又は株券)と引換えに出資契約証書及び配当金受領書を交付しており、その出資契約書には出資者は破産者の事業に対し出資し、破産会社は出資金に対し契約の日より起算して毎月所定の配当金を支払い、元金は契約期間の満了の日に支払うこと、出資者は破産会社の承認を得た場合の外は該出資契約及び権利を譲渡質入することができないこと、破産会社が担保を提供した場合には該担保を他の有価証券と交換することができること、出資者が中途解約したときは出資金額の百分の二十に相当する違約金を支払うこと等が記載してあること、同年六月からは右出資契約証書を交付することをやめ(一部では破産会社の通達にかかわらず後記の約束手形とともに交付していた地方の営業所もある)、出資金額とし、期間の最終日を満期とする約束手形といわゆる配当金の支払のための支払明細書(この文書には利息という文言を利用している)を交付することとし、支払明細書は同年十月頃までは裏面に支払つたいわゆる配当の日時、金額、受領印欄になつていたが、その後は破産会社は定款に定める事業を遂行するため、借入れるものであつて、借入金に対しては契約締結の日から起算して一ケ月経過毎に約定の利息を支払い、期間満了の際手形金額及び最終回の利息を支払う等の約款が記載してあつたこと、破産会社が前記出資契約証書を使用していた昭和二十八年六月以前においても、又約束手形を振出すようになつたそれ以後においても、毎月契約所定の確定した率のいわゆる配当額を支払い契約期間満了の日にいわゆる出資金を返還することを約束していたことが認められる。証人新井彦作、同高橋安雄の各証言中、右認定に矛盾する部分は措信することができない。

もつとも破産会社は昭和二十八年十二月約定のいわゆる配当金を一率に毎月二分に引下げたことは当事者間に争いがなく、前記乙第六号証の四、五によると破産会社の土浦営業所等においては同年十月から一方的に月二分の割合に引下げた事実も認められるけれども、成立に争のない乙第八号証と証人加藤伝、同尾身嘉一の証言を綜合すると、同年十月保全経済会が支払を停止したので、その影響を受けて破産会社においても新規のいわゆる出資の申込が激減し、元本の返還及びいわゆる配当の支払いに窮した結果一部営業所においては十月分から月二分の割合いに引下げて支払つたが、同年十一月分は殆んどの営業所において支払を停止し、一部分に限つて同年十二月分まで月二分のいわゆる配当金を支払つたが、その後は全部の支払を停止したこと、このように破産会社においては支払能力がなくなつたのでやむをえずいわゆる配当率を引下げたのであつて、破産会社に一方的に変更する権利があつてしたものではないことが認められるから、右認定の妨げとらない。

(3)  ところで事業者の事業から利益を生ずると否とを問わず毎月確定率の割合の金員を支払う旨の契約が、所得税法第四十二条第三項に規定する匿名組合契約等に該当するかどうかは問題である。右の匿名組合契約等が「営業者が十人以上の匿名組合員と匿名組合を締結している場合の当該匿名組合契約、その他当事者の一方が相手方の事業のために出資をなし、相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約で当該事業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約」(所得税法施行規則第一条)を意味することは所得税法第一条第二項第三号の規定から明らかである。しかして右施行規則第一条のその他以下に規定する契約(匿名組合契約に準ずる契約)はその前段の匿名組合契約(商法第五百三十五条)と比較すると事業者の経営する事業が商法上の営業に限らず、従つて事業者が商人であることを要しないとしている以外は匿名組合契約の規定の内容と全く同一である。そして商法上の匿名組合契約においては出資を受けた営業者がその営業の成績によつて浮動する利益を分配することが要件とされており、この点で確定率の金員を支払う消費貸借上の利息の支払と区別されているのであるから、確定率の金員を支払う旨の契約は右匿名組合契約等に該当しないとも考えられるのであるが、しかし資金の需要が大であるのに不特定多数人から消費寄託や消費貸借によつて資金を受入れることが禁止されている場合(いわゆる匿名組合方式による資金の受入れの方法が銀行法や貸金業法等によつて一般大衆から消費寄託等の方法で資金を受け入れることを禁止されていたため、それに代る資金の獲得方法として考案されたものであることは公知の事実である)には営業者は資金の受入れをすること自体に大きな利益を享けるのであるから、出資者に対し事業から利益を生ずると否とを問わず確定した率の金員を利益の配当として分配することを約する契約(無名契約)を締結することはありうるわけであつて、それが前記銀行法等の脱法行為として問題の生ずる余地はあつても、法律上不可能とはいえないといわなければならない。従つて予め確定した割合の金員を分配すると定めたということだけでは所得税法に規定する匿名組合契約等に該らないとはいえない。そこで確定率の金員を分配する契約が、匿名組合契約等に該当するかどうかは契約の当事者間において、出資者が事業者の経営する事業にいわゆる隠れている営業者として参加する意思があるか、或いは単に出資者の提供したいわゆる出資金を利用させ、その対価として利息を受ける意思を持つにすぎないかという点について契約全体の趣旨から判断しなければならない。契約の解釈に当つて当該契約に使用された文言にのみ拘泥するのは正当とはいえず、表示された契約全体の趣旨から当事者の意思を推測すべきことは勿論である。

破産会社がした契約の申込の誘引の方法については前記(1)で認定したとおりであり、破産会社が昭和二十八年五月まで出資者との契約に使用した出資契約証書の方式については前記(2)で認定したとおりであり、前記乙第六号証の一ないし三、五、九、十にはいわゆる出資者は破産会社の勧誘を信じて会社で種々の事業を経営して多額の利益をあげているから、出資をすれば利益の配当が受けられると思つて出資をした旨の供述記載があり、又成立に争のない乙第十五号証による地方営業所の日計表に配当金という科目が設けられていて、一応破産会社と出資者との契約は利益配当を目的とする観がないでもないが、破産会社では昭和二十八年六月から出資契約証書の使用をやめて約束手形を振出す方式に改め、営業案内等の配当という言葉を利息とし、又借入金という文言も使つており、(被告はこれらの方式の改正は源泉徴収所得税を免れるために改めたと主張するけれども、証人新井彦作、同加藤伝、同尾身嘉一の証言によると実体に合致させるために改めたことが認められる)希望するいわゆる出資者には破産会社で債券等の担保を提供する旨の誘引もしており、期間も三ケ月ないし二年という比較的短期間であるとの前記認定の事実と、前記甲第九ないし第十一号証、乙第六号証の一ないし十、と成立に争のない甲第六、第八号証、第二十二号証、第二十四号証、第二十五号証、証人新井彦作の証言によつて真正に成立したと、認められる甲第七号証、証人加藤伝の証言によつて真正に成立したと認められる甲第十五号証、証人長井宏治の証言によつて真正に成立したと認められる甲第十七ないし第二十号証の各一、二、第二十一号証と前記証人菅野左一、同宮下国治、同新井彦作、同高橋安雄、同加藤伝、同尾身嘉一の各証言と本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、破産会社が契約申込の誘引に前記のような文言を使用したのは同業者である保全経済会等が同様の文言を使つて盛んに資金を集めていたことや、宣伝のために、有利であるというためであつて、法律的に検討したものではなく(検討した結果借入金、利息という言葉を使いはじめた)、破産会社の決算書類及び元帳、金銭出納帳にはいわゆる出資金は借入金、いわゆる配当金は利息として記載されており、出資者からはその事業資金を組織的に借入れる意思しかもつていなかつたこと、一方いわゆる出資者も殆んどが高率のいわゆる配当に専ら着目し、銀行に預けておくよりは有利であると考えて申込をし、せいぜい営業案内等に記載してある営業種目を知つている程度で、その事業内容には関心をもつておらず、従つて破産会社のやつている事業に参加する意思はなく又いわゆる出資者の方に営業を監督する機関としては何物もなく、いわゆる配当の持続性に疑念をもつてはいたが、短期間なら大丈夫と考えて資金を提供し、破産会社が支払を停止すると約束手形金債権又は貸金債権として訴をおこし、破産の申立をしていること等の事実が認められる。これらの事実をあわせ考えると、破産会社といわゆる出資者との契約が利益の配当を受けることを目的としていたとは断言できず、右契約によるいわゆる配当が所得税法第四十二条第三項に規定する利益の配当として源泉所得税の対象となるものとは解しがたい。

そうしてみるとその他の点について判断するまでもなく、破産者と出資者との契約が右匿名組合契約等に該当するとしてした被告の(一)昭和二十九年二月四日付源泉徴収所得税徴収処分は違法であり、従つて(二)同月十六日付、(三)同年三月十八日付、(四)同年四月二十日付各源泉徴収加算税の徴収処分及び同年三月三日付破産会社の再調査の請求を棄却した決定はいずれも違法であつて取消されるべきであるから、原告の本訴請求は理由がある、

よつて訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 井関浩)

(別紙)

一、請求の趣旨

被告が破産者日本勧業保全株式会社に対し

(一) 昭和二十九年二月四日付でした、破産者が昭和二十八年八月、九月、十月、十一月及び十二月に支払つた金員に対する源泉徴収所得税額合計二四、六六六、三〇六円及び同年八月及び九月に支払つた金員に対する右所得税の加算税額合計金二、四一一、二五〇円を賦課した処分

(二) 昭和二十九年二月十六日付でした、破産者が昭和二十八年十月に支払つた金員に対する源泉徴収所得税の加算税額一、七三四、二五〇円を賦課した処分

(三) 昭和二十九年三月十八日付でした、破産者が昭和二十八年十一月に支払つた金員に対する源泉徴収所得税の加算税額一、五七六、五〇〇円を賦課した処分

(四) 昭和二十九年四月二十日付でした、破産者が昭和二十八年十二月に支払つた金員に対する源泉徴収所得税の加算税額四四七、五〇〇円を賦課した処分のうち金三、七五〇円を超過する部分

(五) 昭和二十九年三月三日した破産者の前記(一)記載の源泉徴収所得税額の賦課決定に対する再調査の請求を棄却した決定は、いずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

(一) 本案前の答弁

本件訴のうち(二)(三)及び(四)の各処分の取消を求める訴はこれを却下する。

(二) 本案の答弁

原告の請求を棄却する。

三、請求原因として原告の主張した事実

(一) 破産者日本勧業保全株式会社(以下単に破産会社という)は、本店を東京都新宿区柏木三丁目三百三十九番地に設け、動産、不動産の売買及び仲介、土木建築業、森林開発事業、鉱山開発及び採堀精錬事業、印刷業、学術教育文化の改善普及に関する事業、電気及び諸機械器具の製造販売及び貿易、ミシンの製造及び販売、各種特許品の製造及び販売、農水産物の加工及び販売並びに右に附属する一切の業務を営むことを目的とし、昭和二十七年十月十七日設立されたが、昭和二十九年三月十日午前十時東京地方裁判所において破産の宣告を受け、同時に原告等二名がその破産管財人に選任された。

(二) これよりさき、被告は破産会社に対し、次表決定の日欄記載の日付をもつて、破産会社が同表支払の月欄記載の各月に債権者に対して支払つた金員は、所得税法(以下単に法と略称する)第四十二条第三項に該当するとして、同表所得税欄記載の税額の源泉徴収所得税及び同表加算税額欄記載の税額の源泉徴収所得税の加算税を納付すべき旨の賦課決定(但し(四)昭和二十九年四月二十日付の加算税の賦課処分のうち、金三、七五〇円は破産会社が昭和二十八年十二月中に支払つた給与に対する源泉徴収所得税一三、八九〇円に対応する加算税三、二五〇円と、同月中に法第四十二条第二項所定の者に支払つた金員に対する源泉徴収所得税二、〇〇〇円に対応する加算税五〇〇円であつて、この部分は争わない。)をなし、各決定はその日付の頃破産会社に通知された。

決定の日

支払の日

所得税額(円)

加算税額(円)

昭和二九年二月四日

昭和二八年八月

三、八八二、七八三

九七〇、五〇〇

九月

五、七六三、九三七

一、四四〇、七五〇

一〇月

六、九三七、一一五

一一月

六、三〇六、五六四

一二月

一、七七五、九〇七

小計

二四、六六六、三〇六

二、四一一、二五〇

二月一六日

一〇月

一、七三四、二五〇

三月一八日

一一月

一、五七六、五〇〇

四月二十日

十二月

四四七、五〇〇(四四三、七五〇)

二四、六六六、三〇六

六、一六九、五〇〇

(三) 破産会社は、被告の為した(一)昭和二十九年二月四日付賦課決定に対し、同月二十八日被告に対し再調査の請求をしたところ、同年三月三日被告は右再調査の請求を棄却する旨決定をなし、この決定は、同月四日破産会社に通知された。そこで原告等は右決定を不服とし、同月二十六日東京国税局に審査の請求をしたが三ケ月を経過するもなんらの決定をしない。

(四) しかし、破産会社においては、前記の目的事業を遂行するため一般から資金の借入を為し、その借入金に対し利息を支払つたことはあるけれども、匿名組合契約またはこれに準ずる契約を締結した事実もないし、利益の分配をしたこともないのであるから、被告が法第四十二条第三項に該当する金員の支払ありとして為した本件各賦課決定(但し(四)昭和二十九年四月二十日付で為した加算税のうち金三、七五〇円を除く)及び破産会社の再調査の請求を棄却した決定はいずれも違法であつて、取消さるべきである。

四、本案前の主張、請求原因に対する答弁及び本案の主張として被告の陳述した事実。

(一) 本案前の主張

(1) 被告が(二)昭和二十九年二月十六日付で為した昭和二十八年十月分の源泉徴収加算税の賦課決定に対しては破産会社においても再調査の請求をしておらない。従つて右決定に対して同年三月二十六日原告等が東京国税局長に対して為した審査の請求は再調査の請求を経ていない不適法なものである(法第四十九条第一項)から、審査の請求がなかつた場合と同様に解しなければならない。

(2) 被告が(三)昭和二十九年三月十八日付及び(四)同年四月二十日付で為した昭和二十八年十一月分及び同年十二月分の源泉徴収所得税の各賦課決定に対しては原告等は再調査の請求も審査の請求もしていない。

(3) ところで租税の賦課処分の取消を求める訴を提起するには、まずその処分に対して再調査の請求及び審査の請求を経なければならないことは、行政事件訴訟特例法第二条に徴し明らかであるから、本訴中右昭和二十九年二月十六日付、同年三月十八日付及び同年四月二十日付で被告のなした加算税の賦課決定の取消を求める訴は不適法である。

(二) 請求原因事実に対する答弁

請求原因(一)(二)及び(三)記載の事実は認めるが(四)記載の事実は争う。

(三) 主張

(1) 本件各処分は違法でない。即ち以下に述べるように破産会社は一般大衆から投資者を募集し、これ等の者と利益配当を目的とする契約を締結し、次表支払の月欄記載の月に支給欄記載の金額を利益配当として支給したものであるから、その投資者に支給した金員は法第四十二条第三項にいう「匿名組合契約等に基く利益の分配」に該当する。従つて被告が同条項を適用して破産会社に原告等主張の源泉徴収所得税を賦課した決定は違法でない。又破産会社においては前記条項で定められた納付の期限後三カ月をこえるも右所得税を納付しなかつたものであるから、被告が法第五十六条第四項を適用して為した本件源泉徴収加算税の各賦課決定も違法でなく、破産会社の再調査の請求を棄却した決定もなんら違法でない。

支払の月     支払額(円)

昭和二八年八月  一九、四一三、九一六

九月  二八、八一九、六八六

一〇月  三四、六八五、五七八

一一月  三一、五三二、八二四

一二月   八、八七九、五三八

一二三、三三一、五四二

(2) 破産会社は出資者と利益配当を目的とする契約を締結していたものである。破産会社はいわゆる「匿名組合方式」によつて広く一般大衆から高率配当を好餌として資金を集めていたものであるが、その資金の提供者たる出資者とどういう内容の契約を締結していたものであるかを考えるには、申込の誘引に当る営業案内及び勧誘員の説明並びに契約書を検討してみなければならない。まず出資者がそれによつて出資を決意した営業案内をみると投資案内と大書し副題に特別配当付と大書し、又「お金がお金をうむうまいお金の殖やし方」「幸福な家庭の礎はまず当社の安全投資から」等大書し、資金の提供を「投資」といつて「貸付」とはいわず出資者のことを「投資者」と称して人をして一見有利な事業への投資であつて、確定利息を約束する銀行預金とか郵便貯金等に比較して遥かに有利な高率な利益配当を目的とするものであるとの印象を与えるような文言を使用し、次に勧誘員もその営業案内を示して確実有利な事業に対する投資であるからその利益より高率な配当ができる旨内容を布衍説明して加入者を誘引し、利益配当を目的とする投資契約であることを理解せしめたのである。そしてこの誘引に応じて出資を申込んだ者に対しては昭和二十八年五月頃までは出資契約証書を交付していたが、該証書には資金の提供者を「出資者」と表示し会社の事業に出資した旨を明記するとともに、これらの出資者に配当として月何分の金員を支払うことを確約しているのである。尤も右会社では昭和二十八年六月頃から借受金元本を手形金額とする約束手形を出資者に交付するという形式を採用しまた前記「出資契約証書」を廃止し、その代りに支払明細書を出資者に交付して、その中で従来「配当月何分」を支払うと記載してあつたのを改めて「利息月何分」と記入することとしたが、これは同年二月第十五国会に所得税法第一条二項三号及び第四十二条三項の改正案が提出せられ、匿名組合契約等に基く利益の分配に対して源泉徴収義務が課される方針が明確になつたため、従来高率の配当を標榜していたのを源泉徴収義務を免れるため確定利息付の借入金の形式に変更したものにすぎずその変更は形式上だけで当事者の意思は依然として従前と同じく利益配当を目的とするものであつた。このことは(1)契約方式を改めた後の新聞広告にも依然として「投資」又は「配当」の文字を使用し、人をして一見本件契約が利益配当を目的とする出資契約であると理解せしめたこと。(2)方式変更後に発行した申込の誘引に当る「投資御案内」には依然として「配当」又は「特別配当」「安全投資」等の文字をことさら大書して、人をして出資契約であると認識せしむることに苦心した形跡があること等によつて明らかである。

更に破産会社は主務大臣の免許(銀行法二条)を受けていなかつたから、確定利息付の借入金契約をしたならば、銀行法に違反することとなることからみても破産会社の意思はかかる契約をなす意思なく、適法な行為たる利益配当を目的とする出資契約をなす意思であつたと解するのが最も自然の解釈である。

又出資者の側においても本件は、高率の配当を約する契約であつたから、その懸念したのは高率配当の永続性であつた。即ち、当時出資者は高率の確定利息の支払の約束を要求するのは無理かも知れないが、多少の高低はあるにしても約束に近い高率配当が永続する可能性があるかどうかを問題とした。ここで加入者は異口同音にこのことを勧誘員に質したのであつたが、勧誘者は、破産会社は有利な事業に投資しているから高率配当の永続が可能であるという説明で漸く納得せしめている点からみても出資者も、利益配当を目的とする出資契約を締結する意思を有していたこと明らかである。

要するに当事者の意思は双方とも利益の分配を目的とするものであつたといわざるを得ない。

更に破産会社においては昭和二十八年十二月一方的に破産会社の取締役会の決議のみで利息の引下を断行していることは、本件契約が利益配当を約したものであつて、確定利息を約したものでないことを物語つている。何となれば借入金契約の利息なら相手方の承諾を得ずして、一方的に引下げることは出来ないからである。

(3) 法第四十二条三項の「匿名組合契約等」というのは商法上の匿名組合契約のみならず、広く経済上これに準ずる契約即ち「当事者の一方が相手方の事業のために出資をなし相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約」(法施行規則第一条)をも含むものと解すべきである。なんとなれば右の規定は「匿名組合契約等」と規定し、これに準ずる契約を包含していることを明言しているのみならず、現行の西ドイツの所得税法第二〇条一項は「左に掲げる所得はこれを資本財産より生ずる所得とする。」と規定し、同項二号の二には「匿名組合員として商業に参加したことにより生ずる利益」と規定しているのみであるが、この匿名組合員というなかには、商法上の典型的な匿名組合員だけでなく、所謂歩合利息貸契約に基く債権者も包含されているものと解されている(ミルレードロイター著法人税法註釈七五頁以下参照)。ここにいう歩合利息貸契約というのは借入金につき確定利息でなく、利益の高に応じた利息を支払う方法であつて、利息に伸縮性を持たせて多数の出資者を募集するのに便利な資金獲得の方法である。このように単に「匿名組合」とのみ規定している西ドイツにおいてすら歩合利息貸契約をも包含していると解されている位であるから「匿名組合等」と規定して、しかも施行規則第一条ではその意義を明らかにしている我が税法においては匿名組合契約に準ずべき利益配当を目的とする本件契約の如きは右「匿名組合契約等」の中に当然包含されているものと解さなければならない。またこのことは法第四十二条三項の立法の経緯及びその趣旨からも容易に覗かれるところである。即ちいわゆる「株主相互金融方式」とともに匿名組合契約ないしはそれに準ずべき契約方式によつて高率配当を標榜して一般大衆から資金の借入をする金融方法が行われだしたのは昭和二十五年頃からであるが、これら二つの方式によつて吸収された資金の総額は同年頃は約三億円であるといわれたが、その後加入者及び業者の増加に従い激増し、昭和二十六年頃には約五十億、昭和二十七年頃には約二百億、昭和二十八年頃に至つては約三百億に達すると推定されるに至り、正規の金融機関に対する圧迫の問題がおきるとともに、これらの業者及び利益分配を受ける出資者に対する適正課税の問題が論義されるようになり、そこで匿名組合契約ないしはこれに準ずべき契約に基く利益の分配に対し、分配を受ける多数の出資者を一々確認する行政上の困難を除去するため利益配当をなす金融業者を源泉徴収義務者として源泉徴収することにして前記条項が制定されたのである(第十六国会参議院大蔵委員会における政府委員の説明議事録二七号参照)。

(4) 匿名組合契約またはこれに準ずべき契約に基く利益の分配として配当された以上破産会社で利益を生じた必要はない。匿名組合契約またはこれに準ずべき契約により会社の受ける資金は、増資により株主の払込む出資(内部負債)とは異り、確定利息を支払う場合の通常の借入金と同様外部負債に属するものであるから、この出資金に対して支払う配当は会社の損害金を構成するものである。従つてその配当は会社の決算に先だつて匿名組合(これに準べきものを含む)営業によつて生じた利益金から会社の損金として支払わなければならない。(この配当の時期は必ずしも会社の決算期と一致させる必要はなく毎月支給することも可能である。)その結果利益に残余があればはじめて会社の決算上利益が生ずることになるのであるから、会社に利益が生じなかつたからといつて匿名組合に利益が存在しないことにはならないし、匿名組合員に配当した結果会社が欠損になるということもなんら異とするに足りない。

更に税法の解釈としては「利益の配当」として支払われた以上は、仮りに匿名組合営業上において利益が生じなかつた場合にも課税されるべきである。けだし利子所得、配当所得等一定の元本から流出する果実が所得税の対象となる場合においては、元本とそれから収得される果実とは区別してその収益に課税しなければ源泉徴収制度は維持できなくなるから、利子、配当という形式的外形的事実があれば仮りに元本をくいつぶしている場合であつても課税すべきものであり、その支払者に源泉徴収義務が課せられているかぎり源泉徴収義務を免れないのである。

五、被告主張事実に対する答弁及び主張として原告等の陳述した事実

(一) 本案前の被告の主張に対する答弁

被告主張の(1)(2)の事実は認めるが、(3)の主張は争う。

前記のとおり破産会社及び原告等は、源泉徴収所得税の賦課決定に対しては適法に再調査の請求及び審査の請求をなしているのであつて、その加算税だけを異議の対象から除外するという特段の意思表示をしていないのであるから、源泉徴収加算税についても源泉徴収所得税と同様に異議を申し立てる意思のあることは明らかであるのみならず、原告等が勝訴して本税たる源泉徴収所得税の賦課決定が取消されることになると、附加税たる加算税は当然にその賦課理由を失い当然取消される関係にあるのであるから、源泉徴収加算税について再調査の請求及び審査の請求を経ていないからといつてその取消を求める訴が不適当となることはない。

(二) 本案に関する被告主張事実に対する答弁

破産会社において被告主張の年月にその主張の金額の支払をした事実は認める。(なお破産会社に源泉徴収義務がありとすればその源泉徴収所得税額及び源泉徴収加算税額が本件(一)ないし(四)の決定額どおりであることは争はない。)

又破産会社は資金を一般大衆から借入れており、その借入れの募集をするのに営業案内及び勧誘員の説明による方法をとつたこと、その営業案内には「投資」なる文言を使用していること、破産会社は貸主に「出資契約証書」を交付していたことがあつたこと、右証書により契約した者に対して支払つた金員も本件課税対象となつた金員の中に含まれていること、借入金については貸主に借入金元本を金額とする約束手形を振出し、一カ月毎に利息を支払う約束をしたこと(昭和二十八年十二月から利息を引下げたこと)及び破産会社において銀行法による主務大臣の免許を受けていないことは認めるが、その余の事実及び法律上の見解はすべて争う。

破産会社は東京都文京区湯島天神町二丁目三十六番地に本店を有していた日本勧業保全株式会社(破産会社は別個の会社以下前身会社と略称する)の業務方式を踏襲して設立されたので暫くの間前身会社の使用していた営業案内を本店所在地のみ改めて使用したが、その営業案内書には「投資」とか「配当」とかの文言が記載されていた。又各営業所毎にまちまちな営業案内を使用していたので、これを統一し誤解を防ぐため昭和二十八年一月頃破産会社の本社でこれを統一したこの営業案内書には「配当」の文字を削除し「利息」の文字を使用した。「投資」の文言は依然残してあつたが、これは貸主から会社に対する関係を法律的に表現したものではなく「会社に金を貸す」という意味を通俗的に表現したにすぎない。又破産会社の地方支社及び営業所においては処により新聞広告、ちらし広告等に「投資」「配当」の文言を使用したものもあるが、これは当時保全経済会や勧業経済がこのような文言を用いて隆盛を極めていたので、これらに対抗するため、やはり同じ文言を使わざるを得なかつたという営業施策に基くものに過ぎず本件契約の法律的性質を表現したものではない。

又出資契約証書も前身会社において使用していたのを地方営業所において若干そのまま使用していたところもあつたが破産会社設立後は、誤解を避け消費貸借契約であることを明確にするため、昭和二十八年二月頃各支社、営業所及び出張所に対し「出資契約証書」の使用を禁止し、借入金についてはその元金を手形金額とする約束手形と「利息月何分」の文言を明示した利息支払明細書を交付するよう通達を発してこれを実行してきたのである。従つて出資契約証書によつて契約した者に支払つた金員が本件支給金額の中に含まれているとしてもそれはごく一部分にすぎない。

又後に詳述するように破産会社は創立以来確定利息付の消費貸借契約により借入金を得てきたものであつて、前記のように約束手形及び、支払明細書の交付という形式を採つたのも法第四十二条第三項が制定される遥か以前のことであるから源泉徴収義務を免れるため外形的に消費貸借契約であるかの如く装つたという被告の主張はあたらないし、破産会社の業務が消費貸借契約によるのであれば銀行法に牴触するから、匿名組合契約を締結する意思であつたとは到底推定できないことである。

又、昭和二十八年十二月破産会社で一方的に利息の引下げを断行したというけれども、貸主が全国的に散在している関係上、その同意を得ることは不可能であり、利率の引下げは各貸主には不利益とはいえ経営の永続化を図る見地からすれば利益でもあるので、会社の一方的処置もまたやむを得ないところで、右処置に対しては各貸主から異議もでなかつたのである。そして、利率を引下げても毎月確定率の利息を支払う点においては従前と変りがないわけであるから本件契約が確定利息であることには変りはない。

(三) 主張

(1) 破産会社と貸主との法律的関係は利益配当を目的とする出資契約ではなくて、確定利息の定めある消費貸借契約である。

破産会社においては前記の創業以来一般大衆から資金を求めて事業を運営してきたが、この間終始一貫貸主に対しては借入金元本を金額とする約束手形を振出し、利益の有無に拘らず、借入契約締結の日から一ケ月経過する毎に一定の利息を支払うという約定をなし、これらの者にその利息を支払つてきたもので、会計上も、貸主から受けとつた金員は借受金とし、支払つた利子は支払利子として帳簿に記載して処理しておるのであり、一方貸主も営業案内書等に「投資」なる文言があるからといつて、これに惹かれて貸付けた訳ではない。事業の内容に着目して利益配当を受けようとする者は株式の上場されている大会社に株式投資をする筈で、株式の上場されておらず、事業の内容も明確でない破産会社に対し投資するというのは不合理であつて破産会社の勧誘員が信頼できる知人であり、「利息月何分」という確定的で、しかも高額な利息が確実に支払らわれるということに唯一の魅力を感じて貸付けたのであり、破産会社の事業の内容、支払われるべき金員が利益の配当であるか利息であるか等ということは、貸主としては契約締結の要素となつておらない。このように破産会社の貸主は双方とも高率の利息付消費貸借契約の意思をもつて契約を結んでいるので、被告主張のように匿名組合契約もしくはこれに準ずるような利益分配を締結したものではないのである。

国税庁においても破産会社の「出資契約書」(前記のとおり破産会社においては右証書の使用を禁止していたが北海道において右証書を依然約束手形と併合して使用していた)に印紙を貼用すべきかどうかの問合せに対し昭和二十八年六月頃「右出資契約証書に基く借入金は民法第五百八十七条以下の消費貸借に該当するから収入印紙を貼用すべきである」と回答し、右契約を消費貸借契約であると断定しているのである。

(2) 破産会社においては設立以来毫末の利益をもあげておらず、借入金の利息はすべて新らしい借入金によつて支払われていた実状で、利益の分配をなすことは不可能であつた。このことは破産財団が将来換価されても借入金の元本の一分の返還さえおぼつかない状況であつて、貸主は著しい損害を受けている事実からも明瞭である。従つて破産会社が貸主に支払つた利息は実質的には元本の一部の払い戻しであつたといわざるを得ないのである。会社が利益をあげたかどうかは会社の経営方式や株主に対する配当金の支払の有無等の外形的事実によつて一様に律すべきものではなく経理の内容を実体的に調査して判断すべきであるのと同様に匿名組合契約においても、利益の分配があつたから利益を得たものとみなしたり推測したりすることは許されない。匿名組合契約においては後記のとおり利益が存在しなければその配当もあり得ないのであるから、利益がないのに利益ありとしてなされた分配金については課税すべき税法上の根拠はなく、法第四十二条第三項は明らかに利益の存在とその配当を要件としたものというべきである。それ故利益がないのに利益配当ありとして為された本件各決定は違法といわなければならない。実際の取扱いとしても法人の蛸配当の場合においては、蛸配当の事実が明白でないため一応課税の対象とはなるが、その事実が証明されると、支払つた税金は還付されることになつているのである。

(3) 以上のように破産会社においては貸主に対しては利益の有無に拘らず毎月確定した率の金額を支払つていたのであるが、このような性質の金員は法律上利益の分配ということはできない。我が国商法理論においては匿名組合とは営業から生ずる利益を分配することを本質とするもので、営業成績に従つて浮動する利益を分配することが絶対的要素であるとされており、利益の有無に拘らず分配すべき最低額を保証する場合には、利益の分配ということはできず利息の支払であつて、こういう契約は匿名組合契約ではないというのが学者の一致した見解である(岩波法律学辞典三巻二〇五頁(竹田省)、田中誠二、商行為法一四八頁参照。)

そうすると本件契約のように毎月確定した率の金員を支払う場合に、それが仮りに営業上の利益から支払われる場合であつても、法律的には利息といわなければならないのみならず、まして前記のように破産会社においては未だかつて利益を挙げたことがないのであるから、利益配当などということはあり得ないものである。従つて法第四十二条第三項にいう「匿名組合契約等」の概念のなかに匿名組合契約に準ずるような「利益配当」を目的とする契約が含まれるとしても本件契約は右条項に該当しないこと明白である。

六、原告主張事実に対する答弁として被告の陳述した事実。

原告等主張の事実及び法律上の見解はすべて争う。約束手形を交付したからといつて約束手形はいかなる債務についても振出し得るものであるから確定利息付消費貸借契約であるとはいえない、のみならず、仮りに会社の帳簿が原告等主張のように記載されていても、それは内部の整理方法であつて原告等主張を維持するに足りるものではない。

又原告は蛸配当であることが証明されれば支払つた税金に対しては還付請求の途が許されていると主張するも少くとも源泉徴収所得税については仮りに蛸配当であることが証明されてもそれだけでは不充分であつて、支払われた配当金が現実に会社から回収されたときに始めて源泉徴収所得税は還付されるべきものである。又国税庁において破産会社の出資契約証書は消費貸借に該当するから、印紙を貼用すべきであると回答した事実はない。

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